今回読んだのは門田 隆将氏の著書「オウム死刑囚 魂の遍歴 井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり」という本である。
はじめてこういう社会的?な本を読んだのだが、非常に面白かった。オウム犯罪とその後について、著者による長年の取材と井上元死刑囚の手記をもとに描かれる内容については息を呑むのも忘れる現実感、そして思想があった。
オウム真理教の元幹部、井上嘉浩は1969年、京都府に井上家の次男として生まれる。幼少期はサッカーや空手を習い、高校は京都一の進学校である私立洛南高校に進学するなど利発で活発な少年であった。
井上はオウムに入信する以前から物質主義的な現代社会に疑問を持っており、ヨーガを通して現代社会からの「解脱」を目指していた。
そんな井上が麻原と出会ったのが高校生の頃である。当時書店で見つけた麻原の宗教観に関するコラムから興味をもった井上は、雑誌で掲載されていた麻原のセミナーに応募する。そこからは他の多くのオウム真理教信者と同様、麻原のある種カリスマ的ともいえる言動に縛られて、地下鉄サリン事件に代表されるオウム犯罪に手を染めていく。
この本ではそんな井上自身の手記を元に、麻原による呪縛がいかに強力で逃げ出せないのか、また逮捕後の井上がどのように過ちを認め、罪と向き合い続けてきたのかについて描かれている。
オウム犯罪は当然許されるべきものではなく、被害者やその家族にとって井上が罪と向き合い続ければ過去の痛みに対する慰めになるものでもない。それでも刑務所の中、取り返しのつかない罪を犯した自分にできることについて考え続けた井上にはどうしても人間らしさを感じざるを得ない。
お父さん、お母さん、ありがとう、心配しないで。
こんなことになるとは、思ってもいなかった。
まずは、よし
死刑が執行された今、井上の最期の言葉の真意を知ることはできない。
ここからは個人的な感想。
本を読む前はどうしてあんなに多くの人々が麻原彰晃に騙されたのかが理解できなかった。たしかに過去の映像などを見ると麻原のもつ独特の雰囲気みたいなものを感じることはあるが、それでもなぜ?という気持ちの方が大きかった。
そんな私だが、井上が麻原と出会う前からもっていた解脱への強い関心とともに本書を読み進めていくと同じように入信していたかもしれないという気持ちが芽生えた。
というのも、今の社会がどうしようもない方向に向かっているという高校生の頃の井上の考えには同意だし、解脱を通して浮世からの解放を目指すという論にも頷ける。正直、ヨーガの修行で得られるものかもしれない神秘体験もしてみたいと思った。
なのでオウム真理教をはじめとしたカルト宗教は一部の狂った信者の話だけではなく、機会こそあれば全然身近な話だということが本書を通して得られた気づきである。
最後になるが、地下鉄サリン事件からもうすぐ30年が経とうとしている。この機会に一度、本書を手にとってみてはいかがだろうか。それではまた。
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